現代の奇想の系譜ーー常盤橋タワーのアートコレクション①

常盤橋タワーに設置されたアート作品全18点について、ディレクションしたコダマシーン・金澤韻(かなざわこだま)が、5回にわたって解説します。第1回の今回は「現代の奇想の系譜について」。(冒頭の画像はラファエル・ローゼンダール《Into Time 20 08 13》 (2021)(部分), lenticular print, courtesy of Rafaël Rozendaal and Takuro Someya Contemporary Art.)

「日本の美」というと、「ZEN」とか「わびさび」とか、色も形も究極的に控えめにした美学が連想されがちなのですが、歌舞伎や日本各地の祭りなど、異世界へ誘われるような、華やかなエレメントも確かに存在しています。

日本美術史の名著に伊藤若冲や曾我蕭白らを取り上げた辻惟雄『奇想の系譜』という本があります。この「奇想」はエキセントリックさ、型破りを意味し、伝統の継承が主流であった江戸時代に、自由で斬新な発想をもって独自の表現にたどり着いた作家たちの仕事に光を当てています。

今回、常盤橋タワーのアートコレクションを考えていく中で、どこかこの「奇想」という概念を拠り所にしていたところがありました。常盤橋エリアはかつての江戸城の表玄関で、現代では東京駅に隣接し、古い時代と現代・未来が交錯する場所という印象があります。それを踏まえ、TOKYO TORCHプロジェクトも、歴史を踏まえながらもグローバルな視野をもち、強い未来志向を打ち出していました。

そこで、江戸の「奇想の系譜」の絵師たちのように、「こんなことやっちゃうんだ!」と、人々を驚かせ、閉じていた頭のフタをパカっと開けてしまうような表現を持ってこようと考えました。

桑田卓郎「陶木/Ceramic Bole」

鮮やかな色彩、見る者の度肝を抜くような形。桑田卓郎の作り出す陶の作品は、これ以上ないほど大胆不敵です。でも適当に作ったのでは、こんな造形は到底できません。桑田は人生をかけて陶という素材や制作方法に取り組んでいて、その徹底した対話と研究からこの斬新な作品を実現しているのです。伝統を解釈し再構築する中で、誰も見たことのないような創造へ向かって跳躍する彼の作品は、今回のプロジェクトでも象徴的な存在です。常盤橋を象徴する緑色(常盤=常緑樹)を取り入れたボディが、不敵に咲きほこる花のようなガラス質の釉薬をまとっています。

桑田卓郎「陶木」(2021) 2F オフィスロビー* Courtesy of KUWATA Takuro and Kosaku Kanechika. Photo OTA Takumi

横山修「aqua Ⅱ」

くるくると旋回する飛行体が描く軌跡のような、異星にたたずむ建造物のような、斬新な造形が魅力的な横山修の作品。竹ひごが作り出すラインの一つ一つを目で追っていくと、信じられないほど自由な気持ちになります。横山はある日、竹工芸の美しさに魅せられて、グラフィックデザイナーから竹を使う造形作家へと転身する決意を固め、国内で唯一、竹工芸が学べる公立機関のある別府へ移住しました。その確かな基礎の上に切り拓いた新しい造形が、海外からも大きな注目を集めています。

アジア全域で長い間親しまれてきた竹工芸は、近年プラスチック製の容器などに取って替わられ、その技を受け継ぐ職人も減りつつあります。彼は数少ない後継者として、また、伝統の内部にとどまることなく常に新鮮なイメージを描き出す者として、まさしく現代の奇想の系譜に連なっています。

横山修「aqua II」(2021) B4F オフィスエントランス*
Osamu Yokoyama, Courtesy of A Lighthouse called Kanata

Rafaël Rozendaal(ラファエル・ローゼンダール)「Into Time 20 08 13」

ネット・アーティストの草分け的存在として知られるラファエル・ローゼンダールのウェブサイト作品は、シンプルな色と形で構成された「動く絵画」です。視点の移動に合わせて画面が変化するレンチキュラー作品は、ウェブサイト作品をキャンバスに固定したような、「ひとつの目的しかないコンピューター」(ローゼンダール)です。ローゼンダールは、インターネット上の無限空間から瞑想的なイメージを思いつき、作品にしていくと言います。こんなに美しい作品が、私たちも普段見つめているスクリーンの中からやってきたのだと思うと、パソコン仕事にも自然に備わった創造性を感じますね。みなさんにもぜひ一度、ローゼンダールのウェブサイト作品を訪れてみてほしいです。無料で公開されていて、瞑想的だったり、ユーモラスだったりします。https://www.newrafael.com/websites/ 今回の作品はローゼンダール自身のウェブサイト作品《Into Time》がモチーフになっています。

Rafaël Rozendaal (ラファエル・ローゼンダール)「Into Time 20 08 13」(2021)  B3F 来客用EVホール  Courtesy of Rafaël Rozendaal and Takuro Someya Contemporary Art. Photo OTA Takumi

宮田彩加「WARP-ポピーを形成するプロット」

宮田彩加は、わざとミシンにエラーをさせ、花の刺繍に壊れたデジタル画像のような表情を作り出します。そこで完璧と思われた世界が少し破れて、風穴が開けられたような印象を受けることになります。私たちは、コンピューターテクノロジーを含むさまざまな技術によって、高度に発達した社会に生きていますが、そこにエラーやバグといったものが尽きることはありません。かえってそれは、計算できない価値を生み出すのではないか――宮田の「不完全な美」を表現した作品は、そういったことを問いかけてきます。

パソコンが固まった時などついイライラしてしまう私たちですが、そういう時には一息入れて、このバグが生み出すクリエイティビティに想いを馳せてみてもいいかもしれません。

宮田彩加「WARP ―ポピーを形成するプロットー」(2015-2021)(部分) 8F 常盤橋タワーラウンジ*

*印…オフィスエリアとなります。一般の方はご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。

このコラムでは全5回にわたって、常盤橋タワーのアートコレクションについて書いていきます。

金澤韻(かなざわこだま) コダマシーン ファウンダー、アーティスティック・ディレクター。 現代美術キュレーター。これまで国内外で50以上の展覧会に携わる。東京芸術大学大学院、英国王立芸術大学院大学(RCA)現代美術キュレーティング科修了。公立美術館での12年の勤務を経て、2013年に独立。2017年から3年間十和田市現代美術館の学芸統括としても活動。2018年、増井辰一郎と上海にてアートとデザインの企画・開発ユニット、コダマシーンを設立。

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