それぞれの毎日にーー常盤橋タワーのアートコレクション⑤

常盤橋タワーに設置されたアート作品全18点について、ディレクションしたコダマシーン・金澤韻(かなざわこだま)が、5回にわたって解説します。第5回の今回は「それぞれの毎日に」。(冒頭の画像は長坂常/スキーマ建築計画《ベンチ/テーブル/スツール for TOKYO TORCH Park》 (2021))

実は、さまざまな業界の方と仕事をする中で、「現代美術キュレーターの方って怖い感じかと思っていたのですが、話しやすくてほっとしました」なんて言われることがあります。それは「アートって敷居が高いです」、と、まだまだ多くの人が思っていることと表裏一体なのだろうと感じています。

常盤橋タワーのアートコレクションでは、土地の文脈や空間といった、ビルのストーリーと響き合う作品をしっかり選びました。そのことで、「難解さ」みたいなものはかなり低減されているのではないかと思います。過去4回のコラムをお読みいただいて、どのような印象を持たれたでしょうか。そう、アートはポイントを押さえさえすれば、とても“わかる”、話しやすい相手なのです。 本連載最後となる今回のコラムでは、TOKYO TORCHを訪れるみなさんにとって、一番身近なところにある取り組みをご紹介します。

長坂常/スキーマ建築計画

TOKYO TORCH Parkは、常盤橋タワーの足元にある約3,000平米の広場です。ここに設置されたベンチとテーブル、スツールは、長坂常/スキーマ建築計画の「インターフェース」という、人々の行動を誘発する道具のシリーズから採用しました。

通常、屋外ファーニチャーは、簡単には動かせないようにすごく重くしたり、その場所に固定されたりします。でも今回のベンチとテーブル、スツールは、ハンドリフターを使うことで、管理者がひとりでも動かすことができるのです。いくつかの形に組み直せるので、キッチンカーが並ぶお昼どき、イベント時、マーケットを開催するとき……など、状況に応じた使い方ができます。 東京のど真ん中に、一般解放された大きな広場があって、ベンチやテーブルがみんなに提供されているのはとても寛大だな、と思います。そして、ファニチャーのフォーメーションを変えることで、人の動きや活気が生みだされるのも、とても柔軟で現代的な感性に合っていますよね。

長坂常/スキーマ建築計画《ベンチ/テーブル/スツール for TOKYO TORCH Par》(2021) Photo OTA Takumi TOKYO TORCH Park

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常盤橋タワーの3階には、就業者の方のための飲食エリア「My Shokudo」があり、夜は一般の方も利用できるようになっています**。My Shokudoのディスプレイは、コダマシーンとプロジェクトメンバーの中原崇志・角尾舞が、書籍やオブジェの選定からスタイリングまでを手掛けました。

3F My Shokudo Café ディスプレイ  Courtesy of Code-a-Machine

カフェの9つの棚には、それぞれテーマを設定しています。「街、まちづくり、コミュニティ」「建築、デザイン」「デザイン思考、未来予想」「インターネット、メディア」「宇宙」「地球、自然現象」「アジアと自然」「アジアと日本」「日本、伝統」と、テーマがグラデーションを描き、過去から未来へ、そしてPCデスクトップから私たちの暮らす街へ、果ては宇宙へと、想像を広げていけるように組みました。仕事の合間にリフレッシュしたり、知的な刺激を得たりするためにぜひ立ち寄ってみていただけたらと思います。

オブジェは世界的デザイナーのプロダクトから、若手作家の小品、そしてアノニマスな造形まで、棚のテーマに合わせて選びました。多くのアイテムがネットショップなどで入手できるので、気に入ったものがあれば探してみてください。全アイテムの情報は、コダマシーンのこのページに掲載してあります。
https://c-d-m.co/portfolio/tt3fmscd/

▼1A棚―テーマ:街、まちづくり、コミュニティ 1)Inka Kana Pot, OYOY Living Design  Designer: Lotte Fynboe 2)Chamber Light Beige, W&S VASE/HAY  Designer: Wang & Söderström 3)Looping, tempo  Designer: Lukas Streit ★建築家やデザイナーによるモビールコレクション 4)A.B.  Artist: 青田真也 ★現代美術家・青田真也のプロダクトライン 5)ZZZOOLIGHT Hedgehog  Designer: Ramin Razani 6)陶植 Ceramic Botanical, STUDIO.ZOK ◎)Oiya  Designer: 倉本仁 ★淡路島の瓦製法をもとに作られた建材製品。書棚だけでなくMy Shokudo Sakabaのディスプレイにも、4種類のOiyaを組み合わせて使用しています

全5回にわたって、常盤橋タワーのアートコレクションについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。TOKYO TORCHプロジェクトのスピリット、ビルの内包する空間とともに生きていくこれらの素晴らしい作品たちが、それを目にするみなさんに末永く愛されることを願っています。

**…2021年10月6日現在、新型コロナウイルス感染症流行の影響で、夜の一般開放は見送られています。オープンについてはTOKYO TORCHのウェブサイトで最新の情報をご確認ください。

金澤韻(かなざわこだま) コダマシーン ファウンダー、アーティスティック・ディレクター。 現代美術キュレーター。これまで国内外で50以上の展覧会に携わる。東京芸術大学大学院、英国王立芸術大学院大学(RCA)現代美術キュレーティング科修了。公立美術館での12年の勤務を経て、2013年に独立。2017年から3年間十和田市現代美術館の学芸統括としても活動。2018年、増井辰一郎と上海にてアートとデザインの企画・開発ユニット、コダマシーンを設立。


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