「点」での提供から「面」での提供へ
- TOKYO INNOVATION RESEARCH
綱川 明美 氏 インバウンド観光におけるチャットボットの可能性 第3回
訪日外国人に「丸の内」はどう映っているのか
現在、丸の内に最も近いサービス提供施設は東京駅です。ビースポークのお客様からの質問やリクエストを見ると、東京駅近辺でよく挙がるのは「銀座」「日本橋」。「皇居の後にオススメのスポットは?」といった質問も来ますが、やはり銀座の方に流れていく人が多いですね。日本橋は、日本の伝統品をハンティングする目的の人が一定数いるようです。残念ながら、「丸の内」というキーワードはあまり出てきません。唯一の例外は、東京駅の「丸の内口」。東京駅には出口がたくさんあって迷いやすいので、たまに入力されることがあります。
ただ、丸の内のポテンシャルはとても高いと思っています。東京駅の丸の内北口にはJR東日本のサービスセンターがあり、旅行者はそこでJRのパスを交換します。隣には、荷物を預かるところもあるので、あの一角はすごく賑わいます。現在は、そこから一気に皇居の方に流れていってしまっている状況です。丸の内には美味しいお店や素敵なカフェもたくさんありますので、伸びしろはあると思います。課題は知名度でしょうか。「Marunouchi」という名前は長いので、外国人にはなかなか覚えられません。ひょっとしたら、名前を縮めたらいいのかもしれません。
自治体や海外にもサービスを展開
ビーボットはこれまで、ホテルや空港・駅など「点」でのサービス提供が中心でしたが、今後は自治体などエリアでの提供も行っていきます。現在、2つのプロジェクトが進行中で、1つは国内で外国人観光客に人気の自治体、もう1つはスイスでアジア人をガイドしようというプロジェクトです。スイスのプロジェクトは、関係者の方が京都のホテルに宿泊した際に、たまたまビーボットを使って気に入っていただき、声をかけていただきました。
目下検討している案件の中で、最も広いエリアは複数の県をまたぐもので、逆に最も狭いエリアは村、スタンダードなサイズは市になります。エリアが狭い方が、ニッチな情報を提供できます。広域になると、まず「多い質問トップ20」にフォーカスするような作り方をするので、ニッチな情報が拾えなくなってしまう可能性があります。市の場合、観光客が全域を回遊するわけではないので、駅周辺プラスメジャーな観光スポット数カ所に関する情報を提供するイメージです。
今は国内よりも海外の方が多くの問い合わせを頂いています。マーケットとして注目しているのは、タイ、ベトナム、フランスです。共通するのは、英語と中国語が主言語ではないことです。地元の人が、英語や中国語をそれほど得意としていない。でも、外国人旅行者がたくさんやって来ていて、ホテルもたくさん建設されているところが、大きなマーケットになります。また、シンガポールは国の政策でテクノロジー導入時に助成金が7〜8割つくので、ここもホットなマーケットと見ています。
ビーボットの技術的可能性
ビーボットの技術を使って観光以外の情報を提供することは可能ですが、今の段階では検討していません。今は、ビーボットに関して観光関係のニーズが明確で、マーケットも大きいので、この分野を広げていきたいと考えています。
新たな分野でチャットボットを始める場合、最初にセグメントごとに必要なテンプレートを作る必要があるのですが、それが結構大変。現状セグメントは、ホテル・空港・駅の3つで、自治体はホテルと空港をミックスします。テンプレート作りは、まず質問を選定してからそれぞれに対応する回答を入れる。次に、同じ質問に対する様々なパターンを作り最適化する作業があります。例えば、レストランを探すというアクションでも、質問には「お腹が空いた」「ピザが食べたい」「夕飯のお薦めを教えて」などのパターンがある。「お腹が空いた」に対して、「この店どう?」と薦めたら、次に聞かれるのは恐らくレビュー、営業時間、場所なので、回答する際にその情報も併せて入れておくことで、やりとりの回数を減らします。
ビーボットは、クライアントごとに提供する情報が異なるため、カスタマイズして個別のボットで運用しています。現在はボットごとにエリア制限を設けており、そのエリアを出ると使えなくなります。ただ、各ボットをつなげることは技術的には可能です。ユーザーの位置情報を取得すれば、成田空港では空港のボットが対応し、東京駅に移動すると東京駅のボットに自動的に切り替わるようにすることができます。なお、成田国際空港では複数のボットを使ったサービス提供を始めており、自治体版でも複数のボットを連携させて、移動すると自動的にボットが切り替わるようなサービス設計をしています。
将来は国内のWi-Fiのような存在に
TripAdvisorのクチコミを見ると、ビーボットがあって良かったとか、こんなふうに助けられた、といったレビューがよく投稿されます。TripAdvisorのランキングが上がると、そのホテルの稼働率が改善して売上も伸びるので、ビーボットはそういうバリューを発揮できている状況にあります。
今のところ残念なのは、サービス提供が点になっているので、そのホテルをチェックアウトすると、使えなくなってしまうところです。全てのホテルに導入できればいいのですが、さまざまな価格帯のホテルがあるので、全てに導入されることは多分ありません。将来的には「国内のWi-Fi」のような存在になりたいと思っています。Wi-Fiは確かにつなぎ直さないといけなかったり、パスワードを入れたりと面倒くさいですが、あのマークを見れば「ここでWi-Fiが使える」ということが誰にでもわかります。今後、自治体単位でエリアが広がっていき、訪日客の85%くらいにアクセスしてもらえるようになれたらとてもハッピーです。
Editors’ INSIGHT
AIの活用により、人と人だけでは通常成し得なかったコミュニケーションを実現できる、そんな可能性を今回のインタビューを通じて学ぶことが出来ました。 AIを介することで、人に対してはなかなか聞けないことも気軽に質問が出来たり、今まで気付けなかった反応にもアプローチすることが出来る。 常盤橋で実現するサービスの検討にあたっては、AIと人の特性を把握し上手く組み合わせることによる、それぞれの特徴を活かした“気の利いた”仕組みの構築を意識し、検討を深めていきたいと思います。