コミュニティづくりに必要なこと
- TOKYO INNOVATION RESEARCH
加藤 貞顕 氏 インターネット時代のコミュニティのつくり方 第3回
新たなコミュニティをつくるには
新たなコミュニティをつくる場合、ゼロから始めるのは大変ですよね。今はネット上にツイッターなりnoteのように、既に人が集まっている場所がありますから、そこで仲間を見つけた方が早い。だからそのために、noteでは多種多様な人を集めるということを意識しています。その結果、非公式のマガジンもたくさんできている。なぜクリエイターがnoteを使うかというと、仲間を見つけやすいからです。公式でもある程度の数が集まっているカテゴリのコンテンツは公式のマガジンをつくるようにして、みんなが仲間を見つけられるように意識しています。多様な人が集まっていて、そこの中から仲間を見つけやすいアーキテクチャーをつくることを心がけているわけですね。
クリエイターが仲間を見つたいときにどうしたらいいかというと、大事なことは、自分自身が表現をすることじゃないでしょうか。例えばバンドのメンバーを募集する時に、「自分がボーカルをやるので、他の全パートを募集します」と言うだけでは集まりませんよね。実際に良い歌を歌って、みんなが聴けるようにしなければいけない。まずは何かを発表すること。そうすれば、人は集められると思います。もちろん、ある程度のクオリティは必要だと思いますが、熱意もすごく大事ですよね。
ウェブサービス企業がイベントを行うことの意義
僕らはウェブだけでなく、イベントにも力を入れています。月に一度、クリエイター向けのイベントもやっていますし、年に1度、クリエイターとファンが集まる祭典「cakes noteフェス」を開催しています。今年は初めて2デイズでやりましたが、面白い人たちが集まって大いに盛り上がりました。ネットでつながることはもちろん大事ですが、やはりリアルな場で出会うことは重要です。リアルに一度会うと、より関係性が深まるので、その後のネットでのコンテンツ体験も変わってくるんですよね。だから、ネットとリアルの両方を提供していくことが大切だと思っています。
リアルとネットの最も大きな違いは、コミュニケーションの質です。速度はネットの方が速くて、いろいろな人とコミュニケーションがすぐにできます。自分の思いを1000人いれば1000人の一人ひとりにちゃんと伝えることができます。ただ、文字や画像など、伝達手段が限られますから、情報の質はやはりリアルとは違います。リアルで会った場合の情報は、表情や話し方や息づかいとか、情報量が圧倒的に大きいですよね。ですから、この2つは相互補完的だと思います。
ネットでつながっておくと、友達になりやすい
最近の僕らのイベントでは、noteを書いている人たちには、受付でアイコンと名前の入った名札を渡すようにしています。そうすると、会った瞬間にお互いのことをわかり合えます。「あ、あれを書いている人ですね。あの記事良かったですよ」と話しかけることができる。そういう意味ではネットでのコミュニケーションは効率がいいんです。リアルの場で初対面でも、10分で深くわかりあうのは難しいもの。でも、ネット上でお互いの書いたものを読んでいると、相当わかり合えた上で会うことができ、さらに実際に会うことで人柄もつかむことができます。
僕らがイベントをやる以外にも、noteでつながった人たち同士でのオフ会や勉強会など、いろいろな場が自然発生的に生まれているようです。そういうことをやっている人たちは、みんな友達になっています。友達ができるというのは、大事なことですよね。しかも、書いたものを通して友達になっているから深い関係のいい友達ができる。だから、イベントや飲み会などに発展していきやすいんだと思います。
友達をつくるには、出会いの数の多さと安心できる場所、そして、お互いに自分を開示していることの3つが必要です。大人になると、なかなか友達ってできませんよね。それはやはり、3つの要素がそろう機会が減るからだと思います。人との新しい出会いも減るし、趣味嗜好を開示することも減る。noteのように3つの要素がそろう場を提供できれば、いろいろな出会いが生まれ、人々が集うようになると思います。
ビジネスパーソンも「クリエイター」
僕はずっと「クリエイター」という言葉を使っていますが、べつに特別なひとを指しているわけではないんです。きれいごとではなく、人はみんなクリエイターだと思います。クリエイティブというのは、作品をつくることに限らなくて、例えばコンビニで買った肉まんがおいしかったとか、何でもいいんです。それを発見して表現したら、その行為はクリエイティブといっていい。そもそも、楽しく暮らすことって、結構クリエイティブな行為ですし、ひとが幸福になるには、クリエイティビティってものすごく重要だと思うんです。そして、昔のひともずっとそうしてきているし、これからもそうやっていくんだと思います。そういうのをお手伝いしたいですね。
あと、ビジネスパーソンとクリエイターを分けた語り方もよく見かけますけど、それもあんまり違いはないと思ってます。たとえば、スタートトゥデイの前澤友作さんとか、ほとんどロックスターじゃないですか。前澤さんは、もともとミュージシャンでもあったわけですが、起業家もちょっとスターっぽいひとが増えてますよね。ビジネスというのも、ひとのひとつの表現形式ですから。本田宗一郎も井深大もスティーブ・ジョブズも、全員クリエイターじゃないですか。ものをつくる会社だけではなくて、三菱を創業した岩崎弥太郎だってクリエイターだと思います。そういう人たちが、恐らく今まではマスメディアの力を借りて発信してきたのが、これからは自分でも発信するようになるということではないでしょうか。岩崎弥太郎さんも、その時代にnoteとかTwitterがあったらきっと書いていたと思いますよ(笑)。
プロとアマチュア、社員と非社員の境界がなくなっていく
noteのように、誰もがクリエイターとして表現できるようになると、プロとアマチュアの境界はなくなっていくように思います。以前は本を出版できる/できないという段差があって、段の上の人を「プロ」と呼んでいました。そしておそらく、仕事もそうなるのではないでしょうか。段の上が正社員、下は非社員という感じだった境界が、これからプロジェクト単位での仕事が主流になって、境目が曖昧になっていくと思います。
ピーター・ドラッカーは、2002年に出版された著書『ネクスト・ソサエティ』の中で、これから人々は、プロジェクト単位でチームをつくって仕事をして、プロジェクトが終わると解散するようになると既に指摘していました。実際、インターネットによってコミュニケーションが非常に楽になり、オフィスすらクラウド化したら、それが完全に可能になります。そんな中で、人が集まることの意味は何か。それはやはり「出会い」と「チャンス」だと思います。それがあるからこそ、人は集まるのだと思います。
コミュニティ・マネージャーの必要性
僕らは、noteのコミュニティをこれからさらに活性化させるために、コミュニティ・マネージャーを増やしていきたいと考えています。コミュニティ・マネージャーは、出版社における編集者の仕事と似ています。作家というのはある種異質な人で、人と違うから何かを伝えたいんです。何かを伝えて、自分をわかってほしいと思っている。そういう存在を社会とつなげる媒介となるのが編集者であり、切り口を考えたり、プロットを作ったり、その後の広報戦略まで考える、まさにコミュニティのマネジメントが仕事です。
建物や街づくりも、これからはコミュニティ・マネージャーの存在が不可欠です。常盤橋からどのようなコミュニティが生まれるのか、今から楽しみですね。
Editors’ INSIGHT
黎明期からインターネット時代のメディア、コミュニテイーのあり方を模索されてきた加藤さんにお話を伺いました。
ネットでのつながりがリアルの場でのコミュニケーションを円滑にするというご指摘のとおり、コミュニティーづくりにはリアルとバーチャルをつなぐ関係性づくりが重要になってきています。
常盤橋という街とネットコミュニティーをつなぐアーキテクチャーとカルチャーについて思いをめぐらし、常盤橋に訪れる人にもたらす価値について考えを深めていきたいと思います。