「note」が仕掛けるコミュニティづくり

加藤 貞顕 氏 インターネット時代のコミュニティのつくり方 第2回

「note」と「cakes」、2つのサービスがある理由

クリエイターが自由に作品を発信できるCtoC型のnoteは、最初からやりたかったことでしたが、先にBtoC型の有料メディアプラットフォームのcakesを始めたのには理由があります。

文藝春秋という出版社を例に話します。この会社は、100年近く前に菊池寛(きくち かん)というクリエイターが、クリエイターによるクリエイターのための出版社をつくろうということで創業した会社です。そのとき、最初に「文藝春秋」という月刊誌を作りました。雑誌にはさまざまな機能があります。まず、作品を発表する場であるクリエイティブ機能。そして、クリエイターにお金を支払うファイナンス機能。さらに読者にとっては新たなクリエイターとの出会いをもたらす、マーケティング的な側面もあります。例えば、芥川龍之介のファンが「文藝春秋」を買うことによって、他の新人作家の作品に触れる機会にもなるわけです。現代のマンガ雑誌も同じですよね。クリエイターとのファンの出会いの場が提供されているのが、雑誌というメディアなんです。

ウェブのメディアの会社をやるのなら、まずは雑誌のような人が集まる場所が必要だと思い、始めたのがcakesです。ネット上にきちんとオーガナイズされた、編集された場所をつくりたい。また、ネットでの課金に人々がまだ慣れていない頃だったので、それを体験してもらいたい。ネット上における雑誌の再定義を目的に、2012年9月に始めました。

とはいえ、当初からcakesのようなメディアは、選ばれたひとだけがコンテンツを掲載するBtoCの形から、いずれはCtoCの形に広がっていくべきものだと思っていました。それで2014年4月に始めたのがnoteです。CtoC型のnoteは、誰でもコンテンツを発表できます。自分の作品を発表するための場を作ってファンを集めることも、課金することもできます。

2つのメディアをうまく使い分ける

たとえば、作家の吉本ばななさんもnoteを使っています。エッセイや小説などを連載して、月額何百円かを頂いて、ファンと直接つながりながら売り上げている。吉本さんには、たまに対談などでcakesにも出ていただきます。そうすると、吉本さんがnoteを使っていることがみんなにわかりますし、吉本さんと他のクリエイターに連携してもらうことで、両方のファンが交わり、読者層が広がるきっかけにもなります。そんなふうに、本(note)と雑誌(cakes)のような関係で、両方をうまく行き来できるといいと考え、うまく使い分けています。インターネットはややもするとタコツボ化しやすいので、クリエイターが他のクリエイターやファンと出会うことは重要なんです。

コミュニティの鍵はアーキテクチャーとカルチャー

さまざまな出会いの場を提供することが、メディアというプラットフォームの役割。プラットフォームという意味では、建物づくりと共通する部分もありますね。実際、人から「noteって何をやっているんですか?」と聞かれると、「クリエイターのための街をつくっています」と答えています。クリエイティブで、かつ前向きな街をつくるのがnoteのやろうとしていることです。

noteが重視しているのは「アーキテクチャー」と「カルチャー」です。インターネットは悪口やフェイクニュースなど、殺伐としがち。それは、この2つの要素に起因しています。これまでインターネットのメディアの多くは、広告によって収入を得るしか方法がありませんでした。広告収入はページビュー(以下PV)によって決まります。そのため、簡単にページビューを増やす方法が追求されるようになります。結果として、PVが増えそうなウソや大げさなことを書くことがインセンティブになりやすくなるわけです。

こういったことが、もともとインターネットのアーキテクチャーとして内包されていることは知っておいたほうがいいですよね。僕らが課金など広告以外の収益化の仕組みにこだわっているのは、そういう理由です。広告だけに頼っていくと、インターネットのカルチャーに多様性が足りなくなると思うんです。課金だと、好きな人と繫がりやすくなるから、そういう問題は起こりにくいのです。

カルチャーの面では、noteはポジティブな場所であり、面白いことをすれば評価され、つまらないことは自然と評価されないようになっています。例えば、レコメンドエンジンがポジティブで面白いものを適切に取り出せば、そういうカルチャーを促進することにつながります。また、noteには記事の下には「スキ」というボタンがあります。「いいね!」ではなく「スキ」。こうしたトーン&マナーに関しても、強く意識をして作っています。

さらに、面白い記事を見つけたら、ひとつにまとめる「マガジン」機能があります。公式のマガジンと非公式のマガジンがありますが、公式のマガジンをまとめているのは、noteのスタッフほか、一線で活躍するクリエイターやパートナーなどの運営メンバーです。例えば「#デザイン記事まとめ」では、業界でも第一線の一流デザイナーのかたがたが運営メンバーに入ってくださっています。こういう仕組みがあると、力を見せたいと思っている若いデザイナーもそういう人に読んでもらえるかもしれないと思って書いてくれます。運営メンバーにとっても、新しい人と出会うきっかけにもなる。結果、この場所は日本で今一番盛り上がっている「デザイン雑誌」のようになっています。
こんなふうに、良いものを書くと見てもらえて、適切に評価される仕組みづくりがとても大事だと考えています。

「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」

そして、クリエイターにとっては、その先もあると最高ですよね。つまり、良い記事を書いたことで就職につながるとか、本が出せるとか。そこにも僕らは力を入れていて、企業と組んでコンテストをやったり、出版社21社と提携して、noteの面白い描き手を出版社に定期的に紹介して、書籍化したりする取り組みもやっています。noteに面白い記事を書けば、本を出せると思うと書く方もモチベーション高く、熱を込めた記事を書くことができます。

今年8月に日経新聞社との資本業務提携を発表しましたが、それもこのことと関係しています。最近、noteにビジネス系の面白い記事を書く人が増えているのですが、そういう人が日経でデビューできたり、あるいは日経と一緒にイベントできたりしたら、嬉しいじゃないですか。

またnoteでは、企業と組んで賞金の出るコンテストもやっています。例えば、今年味の素さんと一緒に開催した、冷凍チャーハンをテーマにした「チャーハン大賞」では、「冷凍チャーハンを使ってつくる、エクストリーム系チャーハンのつくり方」という記事を書いた一般の人が優勝しました。広告代理店も泣いて喜ぶ面白さで、数十万ページビューに上りました。クリエイターにとっては、評価され、賞金ももらえて、デビューするきっかけにもなります。企業にとっては宣伝になりますし、僕らからすると、クリエイターの“出口”をつくることの一環であり、出口が増えれば、さらにクリエイターが集まるという好循環が生まれます。

こんなふうに、内部ではクリエイターが評価される仕組みをつくり、外部でも活躍できる枠組みをつくれば、クリエイターにとって使いやすい場所になっていきます。

僕らは、アーキテクチャーとカルチャーの2つによって、ネット上に“きれいな街”がつくれるのではないかと思っています。きれいで、クリエイターが楽しく過ごせて、何か面白いことを書くと評価されて、お金も儲かる。そうすると、もっともっとおもしろいものをつくることができる。その結果、みんなが暮らす世界がより楽しくなる。これが、我々が実現しようとしている世界です。

ピースオブケイクのミッションは、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」ということです。「続けられる」ということが重要だと思っています。そのためには、場所が安全なことも大事だし、見てもらえることも大事だし、評価されたら生活が成り立つことも大事。そういう場所を、アーキテクチャーとカルチャーの2つを担保することで実現しようとしているのが、noteのやっていることです。そういう意味では、本当に街づくりと似ていると思います。

加藤 貞顕 氏 ピースオブケイク 代表取締役CEO アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)などベストセラーを多数手がける。2011年ピースオブケイクを設立。2012年9月にcakesを、2014年4月にnoteをリリース。

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